少年デュラハン

-- 序 --



 ――あの男はこの街で一番高い建物の階段をどこまでも昇っていって、ついに屋上へ辿り着いたと思ったら、硬い地面へ真っ逆さまに落ちていったのさ。まったく、重力とは残酷なものだね。蝶でも妖精でもない、ただの人間だもの。熟れたトマトよろしくひしゃげて死んでしまうのは当然なのに――
 そんな突拍子もない話を聞かされたのは、もう何もかも終わってしまったあとだった。事件でも事故でもなく、自殺だとわかったのは、急いで向かった現場から特有の残り香がしたからで、なぜそんな馬鹿な真似をしたのか理由を聞くこともなく、唐突にあいつはこの世を去ってしまった。
 いつもあんなに近くにいたのに、おれがいない隙を狙ったかのように命を投げうった。悔しいとか悲しいという感情はとっくに通り越して裏切られたようにも感じたし、変えられない運命に心底絶望した。
 こんなことなら、はじめから心を開くべきじゃなかったんだ。
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