少年バンシー

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 駅前の通りは人が多く賑やかで、大型連休特有の浮足立つような雰囲気があった。自宅からここまで、バスや地下鉄を使わずそれなりの距離を歩いてきたのは、ユキがいたからだ。ずっと家にいたというのが本当なら外を歩くだけでも気晴らしになるかもしれないと思ったし、何より公共交通機関の混み合う車内で他人には見えないユキがどうなるのか想像ができなかった。極めつけに、本人が「大丈夫ですよ。でもあんまり混んでいたらセトさんを驚かせてしまうかもしれません」などと意味深なことを言っていたのが、とどめだった。
 駅がすぐ近くに見えて、ここまで来れば目的の建物はもう目の前だ。駅の隣にあるビルの一階にテナントを構えている、旅行代理店へと足を運んだ。
 正面入口の自動ドアが開き、明るく清潔感のあるフロアが現れた。さほど広くはないが、フロア中の棚には色とりどりのパンフレットが並び、それらをゆっくり見られるように丸テーブルと椅子が置いてある。正面奥には大きなカウンターがあった。
「うわぁ、すごい。きれいな景色が印刷された紙がいっぱいある……」
 ユキは興味津々といった様子で、棚に立てかけてある旅行パンフレットを眺めている。表紙にはインパクトのある字体で国名や地名が大きく印刷されていて、定番の観光地の写真が目を引く。
「ユキ。人と話をしなくちゃいけないから、ここで適当に待っていて」
「はい、わかりました。待っていますね」
 ユキを置いて奥のカウンターに行くと、小奇麗な女性スタッフが笑顔で「いらっしゃいませ」と会釈をする。私はできる限りの笑顔をつくり「フリーライターの瀬戸と申します。編集担当の遠野さんと打ち合わせの約束をしているのですが、呼んでいただけますか」と、返した。女性スタッフは「かしこまりました、お待ちください」と言って、奥の扉へ消えていく。少しして、扉が開いて先ほどの女性スタッフと、ノートパソコンを小脇に抱えたショートボブの女性――遠野知佳が現れた。
「瀬戸さん、すみませんわざわざ来ていただいて」
「気にしないでください、ちょうど外の空気を吸わないとと思っていたところですから」
「ずっと缶詰めでしたもんね。お疲れさまです」
 言いながら、低いパーテーションで仕切られた商品説明用のテーブルへと案内する遠野さん。向かい合うかたちでソファに掛けて、彼女はテーブルの上にいくつかの書類とノートパソコンを広げてこちらへ向けた。
「これが今回頂いた原稿のレイアウト位置です。それで、申し訳ないんですが文字数が少し余ってしまったので、ここを――」
 パソコン画面と書類を交互に差しながら説明を始める。私はそれを聞きながら、横目でユキのいる方を見た。パンフレットを熱心に眺めている。
「――という感じで、修正をお願いします。それと、次回のコラムなんですが、こちらの雑誌と提携する予定で、また瀬戸さんにお願いできないかなって思ってるんですけど、どうでしょう」
「ええ、喜んで。お仕事を頂けるのは有難いです」
「さっすが瀬戸さん、頼りになりますね。それに今日はなんだかいつもより明るいというか……」
「明るい、ですか」
「表情が柔らかい気がしますよ。瀬戸さんってすごく整った顔してるのにいつ見ても無表情だから……。あ、もしかして、私がこないだ教えた表情筋エクササイズ始めちゃいました?」
「始めてないですね。いや、初耳なんですが」
「そうでしたっけ。あれー、他の人に教えたのかな……。あ、わかった、猫とか飼い始めました? 猫じゃなければ、彼女さんができちゃったとか」
 両の手を合わせていたずらっぽい笑顔を向ける遠野さんは、どこか人をからかっているというよりは、無邪気な明るさがある。以前から私に向かって無神経ともとれる一言を平気で投げかけてくるふしがある彼女だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「残念ながら。というか、恋人の有無を訊くのはセクハラですよ、遠野さん」
「ごめんなさい、つい。じゃあ、お仕事の詳細はまたメールで送りますね。これは、お詫びの品です」
 そう言って、彼女は制服のポケットから一枚の紙切れを取り出した。よく見るとそれは、ドーナツショップの無料チケットだった。
「そんな、悪いですよ」
「いーいーの。私はほら、ダイエット中ですから。瀬戸さん甘いもの嫌いじゃないでしょ。それに、ご一緒する方もね」
「だからいないですって……」
「ふふふ。それじゃあ、わたしは仕事に戻ります。良かったら旅行パンフレット見ていってくださいね」
 ノートパソコンと書類を元通りにして小脇に抱え直すと、彼女は笑顔で一礼して、カウンター奥の扉へと戻っていった。その扉が閉まるのを見送ってから、私もソファから立ち上がってユキのいる方へと歩き出す。ユキは先ほどとは違う棚のところで、じっと旅行パンフレットを眺めていた。近くに寄って小声で声を掛けると、ようやくこちらに気がついた。
「あの、セトさん、これ……」
 とあるパンフレットを視線で示している。手に取ってみると、表紙に大きく「妖精の棲む国・南北アイルランドを旅する七日間」と印刷されている。アイルランドといえば、北西ヨーロッパに位置する、イギリスの隣にある島国だ。
「妖精の棲む国、か」
「……ぼくの、ふるさとです」
「きみの?」
 ユキはまた、何か口にするのをためらうような、含みのある表情をしている。会話をしているときにたびたび現れる違和感。薄々気づいてはいたが、妖精といえども踏み込まれたくない領域くらいあるのだろうと思い、なるべく詮索はしないようにしていた。どちらかと言えば一方的にプライベート空間に入ってきたのはユキのほうなのだが、だからといって質問攻めにしてしまえば、居心地が悪いだろう。ところが今のユキは、心の内を吐露するきっかけを探しているように感じられる。どことなく苦しそうでもあるし、そろそろ一度ちゃんと話をしてみるべきなのかもしれない。
 とはいえ、こんな人目のあるところで他人には見えないユキと会話し続けていたら、奇異の目で見られること間違いなしだ。疲れている人扱いで済めばいいが、そうもいかないだろう。
 私はパンフレットをバッグに詰め込み、
「おいで、行こう」
 と小声で言って、ユキと共に店を出た。半歩後ろをついてくるユキは、マントの端を強く握っている。不安を感じているときの癖なのかもしれない。

 お互い言葉少なに、賑やかな通りを歩いていく。相変わらず太陽は燦々と、吹く風は涼やかで心地良い。そんな中、ユキの表情だけがさびしげに曇っているのだった。
 これから向かう場所は決まっているものの、一応、間違いのないよう確認してみることにした。
「つかぬことを訊くけれど、きみは、甘い食べ物は好きか」
「あ、はい。好きです。お砂糖でできたお菓子とか、はちみつのかかったパンとか……」
「じゃあ、少し寄り道をしよう」
 そう言って、先ほどとは趣向の違う店のドアを開いた。軽やかなカウベルの音が鳴り、途端に広がる甘い匂いに包まれる。
 こんなとき、ユキは本当にわかりやすい。細やかな睫毛の目を大きく開いて、言葉を失っている。
 温かみのある店内に所狭しと並ぶのは、誰かに買われるのを今か今かと待ちわびている多種多様なドーナツの数々だった。ここは全国的に有名なドーナツショップで、老若男女に関わらず、さまざまな客が訪れている。
「好きなものを一個、指差して。どれでもいいよ」
 小声でそう指示すると、ユキは目をかがやかせて「いいんですか」と訊いてきたので、もちろんと頷いて肯定する。
 ふらふらと惹かれるように、ドーナツの並ぶ棚のところへ吸い込まれていった。ひとつひとつをじっくりと観察している。ベリーのクリームが乗っているもの、抹茶のフレーバーに、ふっくらとしたクリームドーナツ。星型の砂糖菓子が散りばめられていたり、カラフルなチョコスプレーがかかっていたりと、どれも彩りよく美味しそうだ。
 やがてユキはいちばんシンプルなオールドファッションにチョコレートがかかっているものを指差した。私は無言で頷くと、トングでひとつ、手元のトレイに取り上げる。私も適当なものをひとつ選び取って会計のカウンターへ向かい、さっき遠野さんから貰ったばかりの無料チケットを取り出した。ご馳走様です、と心の中でつぶやいて、ありがたく使わせてもらうことにする。
「こちらの無料チケットにはドーナツのほかに、当店オリジナル製品のプレゼントが付いていますので、よろしければどうぞ」
 そんなことが書いてあったのか。チケットをよく読んでいなかった私をよそに、にこやかな店員から手渡されたのは、かわいらしい猫のイラストが描かれた陶器のマグカップだった。持ち手のところがくるりと巻いた尻尾になっている。この猫はたしか、このショップのオリジナルキャラクターだ。テレビコマーシャルで見た気がするし、店内にもいくつか同じ猫の絵が入ったポップやポスターがある。
 会計を終え、ユキに目配せをして店を出る。甘い匂いが後からついてくる気がした。きっと気のせいじゃなかったんだろう。同じ店内にいたのに、なぜかユキからはしばらくその甘やかな空気が消えなかったのだ。

 賑やかな通りを抜けて、帰り道からは逸れた別の道を行く。気づいたユキが、きょろきょろとあたりを見回した。
「あれ、セトさん、こっちはおうちへ帰る方向とは違うような……」
「こんな天気だしせっかく外に出たのだから、もう少し散歩をしてみようかと思ってね。きみは疲れていないか」
「ぼくはぜんぜん大丈夫です。それに、歩くの好きですよ。どこまでだって歩けます」
「そうか、頼もしいな」
 しばらく進むと、どんどん人通りが減っていって、やがて閑散とした並木道に入った。青々と生い茂る木々がアーチをつくり、その隙間に、小さな公園の入り口が見える。住宅街からも大通りからも中途半端に離れているせいか、ここはいつだってほとんど人の気配がしない。その割に手入れだけはきちんとされていた。だからこそ、私はこの公園がひそかに気に入っている。考え事をしたいときなんかに訪れて、公園内にある自動販売機で買った缶コーヒーを片手に、ここで小一時間を過ごすのだった。
 その自動販売機で、今日は飲み物を二本選んで購入した。ブラックの缶コーヒーと、フルーツミックスジュース。がたん、がたんと缶の転がり落ちる音がして、取り出し口から拾い上げた一本を、ユキに手渡す。
「こんなに色々してもらわなくてもいいんですよ。ぼくは飲まなくたって食べなくたって、平気なんですから」
「生きるのに必要のないことでも、楽しみは大切だよ。きみの反応を見ていたらよくわかる」
 ジュースに続けて先ほど買ったドーナツを紙袋から取り出しユキに差し出すと、おずおずとそれを受け取って「ありがとうございます」と言った。
「……そんなにぼくって顔に出てますか」
「気づいてないのが不思議なくらいには」
「ううう……」
「きみはわかりやすいくらいが丁度良いよ。あっちにベンチがあるから、少し休んでいこう。この公園はほとんど人目がないから、ゆっくりできる」
 公園のやや奥まったところに木製のベンチがぽつりと佇んでいる。傍らにある大きな木が悠々と枝葉を伸ばし、ベンチの上に木陰をつくっていた。
 座面に落ちている葉っぱや埃を手で軽く払って、腰を下ろす。ユキも私に倣って、そろりと隣に座った。
「あたたかいですね」
 見上げる目線を追うと、枝葉の隙間から降りそそぐ木洩れ日が、昼時の太陽をまばらに透かしてかがやいていた。少し強めの風が吹くたびに枝葉が揺れて、さわさわと鳴いた。どこからか小鳥のさえずり声も聞こえる。誰もいない公園の、青い空と緑の草木のコントラストは、どこか懐かしさすら感じられた。
 大通りの喧騒が嘘のようにとても静かで、耳に届くのは他に、ユキの声だけだった。
「ぼくのふるさとにも、ドーナツはあるんです。でも、あんなにカラフルで、いろんな形があるのは初めてみました」
 手に持ったドーナツを感慨深げに眺めながら言う。いつの間に食べたのか、もう半分も残っていない。
「その割にずいぶんシンプルなものを選んでいたが、それでよかったのか」
「チョコレートが好きなので、これがよかったんです」
 言って、ぱくりと、最後のひと口をほおばった。幸せそうに。
「そうか、覚えておこう。きみがチョコレートを好きだっていうことと、遠い国から来たっていうことを」
 ユキははっとして、私の顔を見上げた。
「……えっと……その、ぼくは……」
「言いたくないのなら言わなくていい。訊かれたくないなら、それも同じく。ただ、言いづらいだけなら、茶化したりしないから、話してくれないか。今さら私はきみの言葉を疑うつもりはない」
 言葉の通り、無理に聞き出そうなどとは微塵も考えていない。もし言わずにいるのが苦しいなら、吐き出す道もあるのだと伝えたかった。
「茶化すだなんて、そんなふうには……ぜんぜん……。ああ……ごめんなさい、ぼく、やっぱり隠しごととか嘘が下手みたいですね……」
 やがて決心したように、ユキはベンチから立ち上がった。
 やわらかい芝生を踏みしめて、くるりとこちらに向き直る。対峙するかたちになって、風がふわりと長いマントを巻き上げた。
「セトさん、改めて紹介します。ぼくはアイルランドという国からきた、妖精です。種族名は……」
 一瞬、表情をこわばらせたのがわかった。
「……バンシー、といいます。ぼくたちバンシーは……ヒトの死期がみえるんです。どういう意味か、わかりますか」
 消え入りそうな声が、震えている。

「セトさん、あなたはもうすぐ……死んでしまうんです」

 今にも泣きそうな少年の口から紡がれた言葉は、紛れもなく、死の宣告だった。

「ごめんなさい……セトさん、ごめんなさい……」
 堰を切って、赤い目から熱をはらんだ涙があふれてこぼれ落ちていく。
 胸のつかえが取れて安心したからではなく、言っても黙っていても、どちらにしても苦しかったんだろう。
 つらい思いをさせてしまった。
「……知っていたよ、ユキ」
「えっ……?」
「予想していた、というのが正しいかな。とにかく、話してくれてありがとう。黙っているのはつらかっただろう」
「どういうことですか、セトさん……」
「そのままの意味だよ。何も考えていなかったわけではないんだ」
 ――そう。ユキが何者であるのか、考えるだけの材料は十分に揃っていた。泣きながら突然現れた、赤い瞳に、緑の服、灰色のマントを身にまとう妖精。
 実はパソコンで仕事をする傍ら、それらの情報について調べていたのだ。いくつかのキーワードを入れて検索しただけで、答えは驚くほどあっさりと出た。インターネットというものは便利で、ときに残酷だ。
 それでもまだ半信半疑だった。故郷の国名を聞くまでは。
「アイルランドの妖精、バンシー。その泣き声を聞いたものは、死期が近いという言い伝えがある。……まさしくきみが、そうなんだろう」
「……あ、の、……セトさんは、驚かないんですか。死が怖くないんですか……?」
 もっともな話だ。誰だってあなたはもうすぐ死にますなんて言われたら、慌てるか、放心するか、泣き崩れるか。嘘だろうと嗤うものもいるかもしれない。いずれにしても、平静を保つのは難しい。
 だが、私には……。
「……私には、もう、家族がいないんだ。このとおり、友人知人もそう多くはない。運命と言われれば、それまでだ」
「でも……」
「それとも、きみの言う死の運命から逃れる方法があるのか」
「……それ、は……」
「きみは優しい。優しすぎるのかもしれない。私のことなんかで泣かなくていいんだ。どうしようもないのは、きみのせいじゃない」
 ますます、ユキは泣きじゃくってしまった。もうすぐ死ぬと言われたものが落ち着いていて、それを告げたものが泣いている。なんとも奇妙な光景だった。
 私は自分の死について考えてみた。両親が亡くなったのは十年も前の話だが、ところどころ記憶が抜け落ちている。ひとりきりになって、はじめは笑うことに罪悪感があったのが、次第に感情を出すこと自体が悪いことのように感じられて、いつしか心を動かすことさえもしなくなっていった。いつだったか、感情を発散すべき時に無理に平静を保とうとしたのがいけなかったと、医師に告げられたことがある。
 唯一はっきりと記憶に焼き付いているのは、動かなくなった両親の肌の異様な冷たさだ。健康で明るく力強く生きていた人間が、ある瞬間を境にあっさりと、物言わぬ塊になり果ててしまった。
 私も、そうなるのだろうか。
 今こうして考え動かしている手指でさえも、冷たく動かない「物」になって、焼かれ、灰になる。
 結局、人として大して役に立つこともなく、人生が終わる。せめて草木の養分にでもなれればいいが、現実は難しそうだ。遺書でも書こうか。仕事はどうしよう。遠野さんに迷惑をかけてしまいそうだ。事前に連絡……しても驚かれるだけだろうな。
 ……それよりも。目の前で泣いている少年。ユキを、ひとりにしてしまうのが……。
「ユキ、おいで。帰ろう」
 しゃくりあげて、すっかり聞き取りづらくなった声で「はい……」と返事するユキの手を取った。私は、このときの気持ちをなんと表したらいいだろう。初めて触れたその手は、驚くほどに温かく、たしかな質量が感じられた。やわらかな手のひらが握り返してくる。
 そのとき、自分の中に、ただひとつだけ悔いと言うべきものがあるのを知ってしまった。
 なぜ触れようと思ってしまったのか。気づかずにいたほうが良かったのかもしれない。
 ユキは人間だった。少なくとも、私にとっては。
 他人の運命を嘆いて涙する、無垢なこの少年を、私は……置いていけるのだろうか。

   *

 部屋に戻ってから、ユキは不自然なほどに平静を繕おうとしているのがわかった。これ以上暗い雰囲気にならないようにと気を遣っていたのかもしれないが、どうしても過去の自分を思い出してしまう。なので、無理に振舞わなくてもいいとだけ伝えると、やはりというべきか、ユキは泣き出した。
 夜になって、落ち着きを取り戻したユキにあとどのくらいの猶予があるのかを訊いた。ユキは、あと二日くらいです、と寂しそうに言った。リアルな数字だ。
 私はそのあまりにも短い残り時間をどう使うべきか考えながら、眠りについた。
 睡眠は浅く、うとうとと白昼夢のようなものをみて、短い夜が明けた。カーテン越しの朝日が室内を薄く照らしている。
 重いまぶたを開けると、パソコンデスクの椅子の上でひざを抱えて座っているユキの姿が見えた。
 伏せ気味の睫毛が頬に影を落としている。その視線はどこにも焦点が合っていない。考え事をしているのか、それとも放心しているのか。
 ユキのために床に敷いた布団は、寝る前と寸分違わずに置いてある。
 夢の中で聞いた、押し殺すような泣き声は、ユキだったのかもしれないと思う。布団にくるまったままで、私は決心した。答えはもう、ひとつしかなかった。
 命が消えるその瞬間まで、いつも通りの日常を過ごそう。たったひとりで私のために泣いてくれた少年、ユキと一緒に。
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